8月7日、バングラデシュ政府は310万人にワクチンを投与しました。ワクチンが届きさえすれば、バングラデシュは速やかに大規模な接種ができることを自ら、そしてその接種能力に懐疑的な人にも、証明しました。
「わが国の接種率の低さは、ワクチンの供給が十分ではないからだ」。国の予防接種に関する諮問グループのチョウドリー議長はこう話しています。
バングラデシュで予防接種を実施するには、大きな困難が伴います。まず人口密度が高く、人口約1千万人のギリシャと同じ面積に約1億6600万人が暮らしています。地域に目を移すと、南東部に広がるチッタゴン丘陵地帯には、11の異なる民族、高い非識字率、政情不安などがあります。同じく南東部のコックスバザール地区には、34ヶ所の難民キャンプがあり、ミャンマーから逃れた90万人の無国籍のロヒンギャ難民がいます。政府は8月10日から、55歳以上のロヒンギャ難民、約4万8千人を対象とするワクチン接種を開始しました。
雨季には、洪水が、国のあちこちで道路を消し去ってしまいます。チョウドリー議長は「舟で(予防接種に)行かなければならない。流れに逆らうため、8時間から12時間かかる」と述べています。
世界保健機関(WHO)で予防接種を担当するモーシン医師は、最北部のネトロコナ県で技術支援に携わりました。モーシン医師には、多くの人は接種を受けるために不便や我慢を厭わないように見え「アクセスが難しく、バングラデシュで最も辺鄙な地域にもかかわらず、人々は高い関心と反応を示した」と述べています。遠くの村から舟と三輪タクシーを使ってワクチン接種の列に並んだ70歳の女性と話す機会がありましたが、女性は「怖かったけれど、接種を終え、多くの人に会ったら、もっと多くの村民にワクチンを勧めなければ」と話していたそうです。
ワクチン接種に前向きな姿勢は、ネトロコナ県以外の低所得地域でも同じように見られます。この夏に「ネイチャーメディシン」誌に発表された研究によると、低・中所得国の平均接種率が約80%だったのに対して、米国は65%、ロシアは30%でした。バングラデシュは、世界銀行によって下位中所得国に分類されています。
ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターの専門家、アメシュ・アダリヤ氏は、この研究結果についてメディアの取材に答え、「発展途上国では、ワクチンは文字通り生死を意味し、人々はそれを日常的に見ている」と指摘しています。対照的に、ワクチンで予防できる病で亡くなる人を見ていない贅沢を持ち合わせる高所得国で、反ワクチン運動がより浸透している、と話しています。
9月までの時点で、バングラデシュの接種率は7.6%となっています。チョウドリー博士によると、年内の目標は人口の30%が完全接種を済ませることですが、それはワクチンの供給にかかっています。「現行のシステムや人員などで、1週間に500万から600万回の接種が可能であることが証明されている。」
WHOによると、高所得国のほぼ90%が接種率10%の目標を、70%以上が40%の目標をそれぞれ達成しています。しかし低所得国ではこうした目標の達成に至っていません。
低所得国の接種率の低さについて、WHOのテドロス事務局長は「こうした国のせいではない」としています。「ワクチン製造企業や一部の高所得国からは、低所得国の能力不足が原因だとする釈明を聞かされてきた。しかし、ほとんどすべての低所得国が、届いている分についてはすでにワクチン投与を始めている。これらの国々は、ポリオやはしか、髄膜炎、黄熱病など、大規模な予防接種キャンペーンで豊富な経験を積み重ねている。」
(The Accelerator News from ACT-A, Septmeber 17, 2021. WHO よりJCIEにて抄訳)